新明解国語辞典を読む 004
新明解国語辞典を読む 004
  更新:2006年4月2日

国語辞典とは 1
 新解さんが目指す、国語辞典像とはどんなものか、これが辞書の中でちゃっかり表明しているのである。
 もちろん序文でも書かれていますがこれは当たり前。しかし、辞書の序文を読む人はほとんどいないと思われるれるので本文というか本体でも述べている。ところが岩波さんも、これを序文で批判しているところが面白い。いずれ紹介します。

●じしょ[1]【辞書】
 ある観点に基づいて選ばれた単語(に準ずる言葉)を、一般の人が知っている引きやすい順序に並べて、その発音・意義・用法などを書いた本。〔広義では、ワード プロセッサーや機械翻訳などでコンピューターにより自然言語を処理する際に用いるファイル形式のものをも指す〕「—を引く/—に当たる」[表記]漢字を親字(オヤジ)として配列したものは、「字書」とも書く。

「ある観点」というのが、その辞書の編集方針でしょう。で新解さんの観点とはなにか?
 一言でいうと「皮肉の精神」ではないかと思います。
 第五版から電子辞書についての解説が加わっているのには驚きです。自然言語という語彙も市民権を得たということでしょう。
 自然言語とは我々の業界用語と思っていましたが、どうなんでしょう。普通、言語というと日常話している言語を指します。我々は業務上、言語というとプログミング言語をさすことが多い。以前は一般の人にたいして「自然言語」なんて言うのはばかられたものですが… 昔日の感にひたっています。

●じてん[0]
[一]【字典】
「字書」の意の漢語的表現。
[二]【辞典】
「辞書」の改まった言い方。〔広義では、字典・事典を含む〕
[三]【事典】
「百科事典」の略。 〔[一][二] は書名としてもよく用いられる。また、[二]を「ことばてん」、[三]を「ことてん」と言って、それぞれ区別することがある〕

●の・る[2][0]:[0]【乗る】(自五)
 〈なにニ—〉
(一)ほかから移って、何かの上に位置を占める状態になる。
「踏み台に—/机の上に本がのっている」〔東京方言では、「乗っかる」〕
(二)ほかの場所へ移動するために、馬・車などに身を置く。
「自転車に—〔=自分で操作して、走らせる〕/電波に—〔=その声などが、ラジオ・テレビを通じて各地に伝えられる〕」
(三)その物の性質に逆らわず、その働きを巧みに利用する。
「インクが—〔=うまくつく〕/マイクに—〔=マイクの性質によく合う〕声/仕事に気が—〔=乗り気になる〕/波に—〔=(a)波の動きを利用して、うまく進む。(b)その時どきのチャンスをうまく利用して存分の活動をする〕/勢いに—/ブームに—〔=△便乗して、思いきり活躍する(大いに稼ぐ)〕/リズムに—〔=リズムに合わせて、軽快△な行動をする(に踊る)〕/調子に—〔=いい気になって節度を失う〕/図に—〔=つけあがる〕/脂アブラが—〔=(a)脂肪が蓄積され(て、皮膚ににじみ出)る。(b)好調で、張り切る〕/△時流(潮流・景気の波・ムード)に—」
(四)相手の△勧誘(依頼)に対して応じる態度を示す。
「一つ相談に乗ってくれまいか/すぐ話に乗って来た/一口—〔=参加する〕/口車に—〔=だまされる〕/△おどし(誘い)に—」
(五)〔新聞・雑誌などの〕記事になる。
国語辞典に日常語ののって〔=収録して〕いないのには驚く」〔(一)(二)の一部の対義語は、降りる〕 [表記](一)(五)は、「載る」とも書く。

 新解さんは「日常語」も載っていて、特に外国人には便利なのではないだろうかと、これぞ、国際的な日本語辞典と言うべきか。
 しかし、新解さんの用例を参考にすると「皮肉っぽい変な外国人」ができあがらないとも限らない。

 東京方言と明記しているところも明解さ。東京方言=共通語と思っている日本人が多い。
 最後に極め付きの新解さんの自己表明を示します。


●んとす
〔雅〕〔「むとす」の変化〕 事態の実現のさし迫っていることの予想や、主体の強い意志の発現が間近であることを表わす。
「彼カノ国の人来コば、皆明きな—/弓矢を取り立てんとすれども、手に力も無くなりて/御衣オンゾを取り出イダシて着せ—/われら一同、現代語辞典の規範たらんとする抱負を以モツて、本書を編したり。乞コふ読者、微衷を汲クみ取られんことを

 下線の部分に注目してください。これは見出し語の最後から二番目の語彙になっていて、昔から文語調であり、こんなことを言っているのは新解さんが最初でしよう。
「弓矢を取り立てんとす」は平家物語からの引用のような気がします。
 ところで「弓矢を取り立て—れども」とすべき(誤植)ではないか?

一方、岩波さんは次の通りです。
「んとす」はありません。


●じしょ〔辞書・字書〕→辞典(1)(2)
じてん〔辞典〕(1)言葉を一定の順序に並べ、その発音・意味・用例などを説明した書物。辞典。▽広い意味では事典、字典を含む。
(2)〔字典〕漢字を一定の順序に並べ、その発音・意味・用例などを説明した書物。字書。字引。▽辞典とも同じ意味に用いる。(3)
〔事典〕物・事柄の内容を、見出しの字母順または内容の説明に便利な順で、説明した書物。

 優等生的解説ですね。
 自然言語も自然言語解析用辞書についても言及していない。


広辞苑の「辞書」
●(2)ワード‐プロセッサー・自動翻訳システムにおいて、漢字・熟語・文法などを登録してあるファイル。

 となっておりさすが広辞苑。
 新解さんには見出し語に「自然言語」はなく、これは明解とは言えない。
 我が家の国語辞典では広辞苑と岩波さんにあります。


 岩波さんの「自然言語」
●人間が生活の中で普通に使っている(日本語や英語のような)言語。▽形式言語と対比的に言う場合に使う。

 ところで「辞書」と「辞典」の違いは岩波さんでは明解ではありませんが、さすが新解さんは「新明解」と言われるだけあります。

【注意】
 新解さんの引用の中で、「以モツて」のように漢字の直後のカタカナは読みを表しています。辞書上では小さいフォントになっています。

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